濁川孝志さん「星野道夫 永遠の祈り」を読んだ感想と概要

「星野道夫 永遠の祈り(でくのぼう出版)2019年3月21日出版」を紹介します。星野さんはよく知られた写真家で、写真展を見に行った方は非常に多いと思います。私も東京ミッドタウンの会場で見学したことがあります。本書は濁川孝志さんの「星野道夫の神話」に続く作品になり、ほんとうの星野さんを知るために書かれた力作です。

星野さんの作品はアラスカの大自然を舞台にした、さまざまな動物や人間の営みがテーマになっているものが多いです。1996年にカムチャッカ半島でヒグマに襲われ、43才の若さで急死されましたが、それまではアラスカに暮らしながら多くの旅を重ね、写真集やエッセイ集を出版し、数々の賞を受賞しました。その後、アラスカの先住民に対する興味が深まり、彼らに伝わる神話をめぐる旅をするようになります。ある時、ライフルを携帯して長期の撮影に入ったことがあります。とても安心でしたが、自分の行動が大胆になっていることに気づき、不安、恐れ、謙虚さ、自然に対するおののきが薄れていました。どこか近くに熊がいるような、死と隣り合わせの緊張感を持ちながら行動している時の、感覚が研ぎすまれた状態が星野さんは好きです。また自然界の動物は常に危険にさらされながら生きている訳ですから、自分だけが安全であることはフェアではないと考えたのかもしれません。だから深夜、熊のいる森でライフルを携帯せずにテントで寝ることを星野さんは選択しました。また狼の遠吠えを聞いている時も、なんの恐れも感じず、まわりの自然と調和したハーモニーのように聞こえていました。

アラスカでの圧倒的な自然の体験は、自分を大きく変える力を持っています。そこは宇宙と対話ができる空間です。5000m級の山に囲まれた氷河の上で過ごした夜、降るような星空、漆黒の闇を生き物のように舞う炎(オーロラ)、これらは宇宙のドラマを一人の観客としてみるような体験でした。

星野さんの霊性に大きな影響を与え、神話をめぐる世界に案内したのは、クリンギット族のネイティブインディアンであるボブ・サムでした。彼は墓地の掃除をすることで白人に対する恨みや憎しみが消えていき、アメリカ陸軍も作業に協力するようになりました。星野さんはそれを見つめながら、世界を少しづつ変えていく不思議な力を感じました。彼は自分が守った無数の魂に見守られているような気がしたそうです。星野さんの霊性を分析すると、自然との調和を重んじ、年長者や古い知恵に生きるべき方向性を仰ぎながら、物質を超えるという思想を持ち、輪廻という旅を続ける人間という人物像が浮かび上がります。実際に星野さんは、目に見えるものに価値を置く社会よりも、目に見えないものに価値を置くことができる思想に惹かれました。

北極海沿岸にベースキャンプを張って、自然番組を収録する予定であったが、悪条件が重なりうまく行かないことがありました。テレビ局のスタッフの焦りが分かりすぎるくらい分かりました。そんな時でも、こんな地の果てで忘れな草は淡いブルーの花びらをひっそり咲かせていて、「仕事のことはすべて忘れて、今自分がここにいていろいろな体験をしていることを見ておきなさい」と言われているようで、私たちが生きることができるのは、過去でも未来でもなく、ただ今しかないのだと思ったそうです。子供時代は、過去も未来もないただその一瞬一瞬を夢中になって生きてきました。過去とか未来とかは、私たちが勝手に作り出した幻想で、本当はそんな時間など存在しないのかもしれないと思いました。 星野さんの写真の撮り方の特徴ですが、被写体の一瞬を切り取るのではなく、その被写体が持つ背後の物語を理解して、自分の中で明確にイメージできるまでじっと待ちます。その土地を深く知ろうとする姿勢が強く、好きになった場所や風景が自分を受け入れてくれるかどうか、それが分かるまではカメラを持たずにじっとその場に佇んでいるそうです。

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